6時間半後。 ジョホルバールの上空から8つの落下傘が開いた。
最初に飛び降りた商が目標の落下地点へと誘う。
夕闇が西の空から襲い掛かる。
耳を劈く風の音、ゴーグルの視界を遮る水滴。瞬く間に商の思考が吹っ飛んだ。

ヒュ―、ヒュ―。
電光石火の稲妻が、右手前方で暗闇を切る。
ゴロゴロ、ゴロゴロ。
そして次の瞬間、
バリ、バリ、バリ、バリ…。ドス―ン!
海面を襲った落雷に、隊員全員が度肝を抜かれた。
気を取り直し、着地するまでの数分間、商は冷静に分析した。
(…奴の腹は…)
「ジーッ。ジーッ。
Precursor, 214V and 314W!」
胸ポケットのCBの赤ランプが点滅し、ドンラト―バからの連絡を告げる。
2名の
諜報員が先に着地、安全を確認する。
眼下にジョホルバールの工場地帯が迫ってくる。
(…花武庫待子、最上元麻希子、長万部、十勝川、影権、道街…)
時系列で見る人の繋がり。
(…奴はいつでオレと麻希子を殺せた筈だ。何故、今なんだ…)
ネットカフェのマスター、閑散寂の忠告を思い出す。
―誰も信用してはいけません。…誰もです―
着地まであと500メートルと迫った時、陸地から閃光弾が一発夜空に舞う。
商が落下傘部隊全員に活を入れた。
「
Carry out your assignment! 頼むぞ!」
すかさず隊員から返事が返ってきた。
「10−4。了解!」
シンガポールの街並みが、眼下から消えていく。
商が着地した地点は、工場地帯から数百メートル離れた土手であった。
次々と後方部隊の公安特殊工作員が降り立つ。落下傘を素早く畳んだ後、商の指示で2列縦隊の部隊が、駆け足で目標の工場地帯に向かう。
ザクザク、ザクザク。
装備品を上下に揺らしながら、商が心の中で叫んだ。
(…麻希子、待ってろ! 死んでも助けてやる!…)
目の前に家電メーカーS社のジョホルバール工場が見える。
すぐさま黒覆面を被る商。
麻希子の居場所を赤外線センサーで確認する隊員たち。
表面実装工程の基板のはんだ付け機械が設置してある部屋に、拉致されていることが判明。
隊員全員に連絡が入る。
緊迫した空気が流れる。
「
Show time, you guys! いくぞ!」
商が親指を立てた。
「
Freeze! Go, go, go, go!」
手榴弾の爆発音が4ヶ所で轟いた。
(つづく)
テーマ:ミステリ - ジャンル:小説・文学
- 2007/03/09(金) 08:35:42|
- 「ハグル」(連載)
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