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公募出稿作品は『商社マン綾野高次』(長編ミステリー)『ハグル』(長編スパイ小説)『税金兵衛』(短編)です。当ブログにて連載中の小説はフィクションであり、登場する人物・団体名等は全て架空のものです〜


【公募投稿作品】短編ミステリー「パンジーカーペット」(1)〜(14)

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“スキー場でフリーターが殺害された。犯人は―”







s-crw_7867_rj.jpg▼ 登場人物 ──────────────────────
◆ 城野聖子【きのせいこ】25歳。4月から語学学校勤務。
椰子乃実【やしのみのる】聖子の元彼。ツッパリ系のフリーター。
◆ 矢鱈見栄春【やたらみえはる】スキーツアーの青年。
◇ 赤塁兆【あかるいきざし】P県警強行犯担当課長。
◆ 黄鞠斬太【きまりきった】P県警新米刑事。
────────────────────────────

(10)〜実の弟〜


「N温泉に向かうバスの中で、ちょっといざこざがあって…実とサラリーマン風の男性が言い合いになったんです」
「原因は?」
「私たちの会話が煩いって、いちゃもんをつけられて」
「それで?」
「サービスエリアのトイレで二人、殴り合いになる寸前でした」
「収まったんですか?」
 赤塁が言葉尻をしっかり捕らえて訊いた。
「ええ。…喧嘩したら警察を呼ぶ、って実に言ったら、その場は収まりました」
「そうですか」
 煙草が吸えない赤塁は手持ち無沙汰になり、黄鞠にもういっぱいコーヒーを注文させた。
「刑事さん。まさか、その男性が――」
「いや、まだ分かりません。取り敢えず、調べてみます」
 それから聖子は赤塁から2、3、実の家族について訊かれ、淡々と答えた。
 テーブルに置かれた二杯目のコーヒーを、赤塁は一気に飲み干した。
別れ際、聖子を見つめ、ポツンと言った。
「実さんと弟は、相当仲が悪かったんですね」
 聖子が立った。
「わたし――」
 赤塁と黄鞠も立った。
 聖子が言葉を呑み込んだ。
 黄鞠が赤塁の視線を追う。
「捕まえて下さい、犯人を。別れるつもりだったけど、かわいそうです。殺されるなんて」
 聖子が俯いた。
「大丈夫。任せてください」
 聖子は赤塁の申し出を断り、注文したレモンティーの代金を払って出て行った。
 黄鞠が聖子の背中を追う。
「課長、やっぱり怪しいですね」
「オマエはまだ坊主だな。彼女が犯人なら、わざわざ自宅に戻ってくるか? バレバレじゃないか」
 赤塁は軽蔑した眼差しで黄鞠を見た。
 不貞腐れた黄鞠は、嫌味ったらしく切り返した。
「煙草。僕が何度注意しても聞かないのに、城野さんが言ったら一発でしたね。女性には甘いな、課長」
「うるさい奴だ」
 赤塁は知らん顔して、黄鞠に車のキーを投げた。
「H県警から車使っていいって、よ。城野聖子の身辺でも洗ってこい」
「分かりました」
 赤塁の視線が宙を見た。

(11)〜首吊り〜


 午後6時過ぎ。
 すっかり暗くなった神戸の町を、阪急神戸線の高架沿いに六甲に向かう1台の車。
 ファミリーレストランが見え、がらがらの駐車場に進入した。
 レストランからも、道路からも視界に入らない奥まったところに車は駐車した。
 早速携帯電話をかける。
 待ち受け画面から電話、アドレス帳検索へと進み、通話先の相手をクリック。
 ツッ、ツッ、ツッ、ツッ――と送信音が流れ、すぐさま着信音に変わった。
「ごめん。仕事中だった?」
 申し訳なさそうに言葉を選んだ。
「えっ?…大丈夫。けっこう猿芝居だったけど」
 前後左右、人気の無いことを確認した。
「盗聴は?…テン・フォー」
 《了解》を意味するCB市民ラジオ通信用語で短い会話を締め括った。
 自動のドアウィンドーを下ろし、煙草に火を点けた。
 一気に肺にまで到達する勢いで、思いっきり吸い込む。
 尖らした唇から、一本線の煙が吹き出した。
 暫くして黒塗りの乗用車が駐車場に入って来た。接触寸前の狭い間隔で横付けする左ハンドルの外車。スモークのかかったウィンドーから髭面の男が顔を出した。
 ぺコッと頭を下げたあと、切符を一枚手渡した。
「これです」
 受け取ると日本車の方がすぐエンジンをかけ、「ご苦労様」とひと言いって六甲方面に走り去った。
 髭面の男は元来た道を三宮方面に向かった。

 それから2日後、六甲山の山荘裏手の雑木林で、実の弟の首吊り死体が見つかった。
 所轄の刑事は到着と同時に縊死と断定したが、念のため検視官を呼んだ。
 実の実家と弟の身辺を洗っていた赤塁は、黄鞠と共に2時間後に現場に到着。ビックリ仰天した。
「なんてこった!」
「課長。このホトケ、実の弟ですね」
「くそったれ!」
 赤塁は足元の木切れを蹴り上げた。

(12)〜花言葉〜


 所轄の刑事が近づいてきた。
「ご苦労様です」
 身長は170強と高くはないが、ポマードで固めたスリックヘアと鋭い目つきから、筋モノと誤解されてもおかしくない威圧感が、あった。
「これがワープロで打った遺書です」
 赤塁がゆっくりと2度読んだ。

―兄を殺したのはおれだ。死んでわびる。

「僭越ですが、遺留品は何かありましたでしょうか?」
 黄鞠が慇懃無礼な訊き方をした。
「いや、これだけ――」
 と言いかけたとき、側にいた所轄の若い刑事が「こんなものがありました」と、証拠物品を入れたみかん箱の中からカーペットを1枚引っ張り出した。
 そこにはスミレ色が鮮やかなパンジーが描かれていた。
 黄鞠は丸い目を好奇に染めて顔を突き出した。
「パンジーですね、これ」
 赤塁が腹から息を吐き出した。
「課長。パンジーのカーペットですよ」
「どうした、それが」
「花言葉は《私を忘れないで》ですよ」
 赤塁がカーペットから目線を逸らせた。
「どうしてそんなこと、知ってるんだ?」
「学生のとき、付き合っていた彼女が誕生日プレゼントにくれたんですけど、手紙に花言葉を添えていました」
「カーペットを、か?」
「いや、油絵でしたけど」
 赤塁が空ろな視線を中に泳がせ始めた。
 先程のスリックヘアがカーペットを手に取り、眼を凝らした。
「新品ですね。まだ買って日が浅い」
 中を彷徨っていた赤塁の視線が、ふっと止まった。
「自殺と関係はないと思いますが、不憫ですね。…兄弟げんかの結末が、これとは――」
 赤塁が視線を落とした。
「課長、城野聖子を当りますか?」
「いや、もういい」
 そういって、赤塁はスリックヘアに検視結果の報告を依頼した。

(13)〜走り屋〜


 夕方の5時過ぎ。六甲山系を下る警察車の眼下に、100万ドルの夜景が姿を現した。
 黄鞠は赤塁の指示通り展望台で車を停めた。
「課長、きれいですね」
「さすが、神戸だな」
 赤塁が背広から煙草を出した。
 擦りマッチで火をつけ、残りかすを無造作に地面に捨てた。
 気持ち良さそうに煙を吐き出す赤塁の口元は、暗いながらもほくそえんでいるように見えた。
「――奴の方はどうだった?」
「奴、って?」
「実とスキーバスで言い争いになった男だ」
「名前は矢鱈見栄春、年齢は32歳。アリバイがあり、シロでした」
 薄暗い外灯の下で、黄鞠が手帳を読んだ。
「ブランド物の皮革製品を取り扱うK商社に勤務しています。最近、イタリアやスペインにちょくちょく出張に行っています。今は高槻にある家賃6万円の賃貸マンションで独り暮らしですね。両親は健在。兵庫県の揖保郡に住んでいます」
「あの素麺で有名なところだな」
「ええ。テレビで見ましたが、静かなところで――」
 黄鞠の話の残り半分が、突如現れた六甲山の走り屋の爆音でかき消されてしまった。
「ヤロウ、捕まえてやる! 黄鞠、行くぞ――」
 赤塁が乱暴に煙草の吸殻を地面に捨て、車に向かった。
「無茶ですよ、課長!」
 黄鞠が仕方なく追った。
「課長、落ち着いてください。危険運転致死罪ならまだしも、爆音をたてて走っているだけじゃないですか」
「だけ、って何だ」
 赤塁が車のドアを握ったまま、手を止めた。
「交通課の仲間に聞いたことありますが、走り屋に見える奴は、結構運転に気をつけているようですよ」
 赤塁が踵をかえした。
「死ぬなら人に当らず、モノに当って死ぬ覚悟が出来ていると」
 赤塁が首を捻った。
「一番怖いのは素人だって、言ってました。わき見運転や酒気帯び運転で老人や子供を轢いたり…取り返しがつかないって」
 確かに。
 サイレンを吹鳴して走り屋を蹴散らし、前方でお縄にする、なんて逮捕劇を赤塁は想像したが、ここは思いとどまった。
「神戸は明後日までだ。弟の兄殺害事件で幕を下ろし、検視結果を受け取ったあと、P県にもどろう」
「分かりました」
 アンロックしたドアを開け、赤塁が助手席に座った。
 黄鞠は背広の右ポケットに手を突っ込み、ブツを弄った。
 運転席についた時、赤塁は瞑想するように眼を閉じていた。

(14)〜ライター〜


 翌朝9時半。黄鞠は30分遅れでH県警に突いた。
 椰子乃実殺害事件の捜査本部が置かれた捜査一課の隅に、赤塁の姿があった。
 来年定年を迎える捜査一課係長の白神が大きな欠伸をして近づいてきた。
「赤塁課長さんは、もう来とるよ」
 相変わらず、白神は職制に“さん”をつけている。
「マジですか?」
「ホシは実の弟だったのか。課長さん、朝早くから報告書を纏めてるよ」
 白神は振り返って赤塁の方を見た。
「ヤバイ、ですよね?」
「――かな?」
 黄鞠が声を落とした。
「あれの方は?」
 白神は黙って身体の前で親指を立てた。それからフレミングの法則のような手を示し、メールをすると合図を送った。
「どうも」
 お礼を言ったあと、黄鞠は爆弾覚悟で赤塁に近づいた。
 今の時分、PCで報告書も当たり前になっている筈だが、赤塁は手書きの報告書に固執していた。
「課長、遅れてすみません!」
 赤塁の表情は明るい。
「おはよう! まだ9時半だぞ。そう、せかせかするな。ちょっと先に来ただけだ。驚いたか?」
「驚いたも何も、伝言ぐらい残してくださいよ、先に来られるんだったら」
「たまにはゆっくり寝かしてやろうと思って、な」
 30代半ばの婦人警官が温かいお茶2つと灰皿を持って来た。
 赤塁は礼を言ったあと、大きさのちぐはぐな茶碗の大きい方を持ちあげ、ゆっくりとすすった。
 背後で白神の咳が聞こえた。
 黄鞠は被りを振り、右肩越しに白神にちょこっと頭を下げた。
 そして赤塁の方を見て、こう言った。
「課長、見つかりましたよ」
「何がだ?」
「ライターですよ、ジッポ―のライター」
 黄鞠が鮮やかなシルバーのライターを差し出した。
「えっ! どこで見つけた?」
「ホテルです。実が殺されたNホテルです」
 赤塁は虚をつかれたように、言葉に詰まった。

(15)〜レイジー・スーザンー〜


――どうして黄鞠に連絡が。

 赤塁は首を捻った。
「見つかってよかったですね」
 目線を逸らしていた赤塁は、信州に戻ったら取りに行くと明るく応えた。
 二人は1時間ばかりで報告書を書き上げた。

 その晩、H県警刑事課の取り計らいで、赤塁と黄鞠が夕食に招待された。
「黄鞠。場所は大丈夫か?」
 JR神戸線の三宮駅から明石方面の元町に向かって歩いている。
「課長、もうすぐです」
 50メートル程進んだところで、左手に豪華な中華料理店が見えた。
《食べチャイナ》とはウィットの利いた店名だ。
「おい、おい。まさか大袈裟な慰労会でもやろうってんじゃないだろうな」
 赤塁は内心期待していた。
 正面玄関は迎賓館を思わせる豪華なつくりである。20段ほど階段を上がり、赤い絨毯を踏んだとたん、重厚な木製の自動ドアがゆっくりと開いた。
 スリットの入った、深紅色のチャイナドレスを着た店員が2名満面の笑みで応対した。
「イラッシャイ、ませぇ――」
 赤塁の顔が緩んだ。
「“黄鞠”の名前で予約しているんですけど」
「“キマリさん”デスカ。ちょっとマッテクダサイ」
 一方の店員が受付に行った。
 暫くしてエレベーターで3階に案内された。
「コチラです」
 ドアの前の案内板に、“最後の晩餐会”と手書きの紙切れが貼ってある。
 赤塁はムッとした。事件の解決をみた慰労会。歓送会ならまだしも、“最後の晩餐会”とはいただけなかった。
ドアを開けるのを躊躇った。
「あちらさんは、何人来るって?」
 赤塁は言い方は投げやりだった。
「2人、って言ってました」
「そうか」
 代わりに店員がドアを開けた。
 正面に所轄の刑事課長が座り、右隣に白神がゆったりと座っていた。
 この前の雰囲気と違って、白神が第一線の刑事のように映った。
 気のせいだろうか。
「いやぁ、お疲れ様でした。どうぞ、どうぞ」
 刑事課長と白神が席を立ち、赤塁に正面から向かって左隣の席に座るよう促した。
黄鞠と白神が目配せをした。
「サプライズ・パーティーですか?」
 赤塁がそう言ったのには理由があった。
 テーブルの両サイドに屈強な刑事が1名ずつ立っている。
 手を後ろに組み、あたかも次の指示を待っているように見える。
「まあまあ、お掛け下さい」
 赤塁が肩越しに黄鞠の方を振り返ったあと、席についた。
 ドアが閉まり、同時に旋錠する音がした。
 黄鞠はドアを背に、刑事課長の正面に座った。
「赤塁課長。中国式の円卓は英語で“レイジー・スーザン”っていうんですよ」
「それがどうした」
 黄鞠が円卓に手を置き、回し始めた。
 ゆっくりと回りつづける円卓。
徐に黄鞠が円卓の上に箱のようなものを載せ、赤塁の目の前でピタッと止めた。
赤塁が眼を丸くした。
「これは――!?」
 赤塁の頬が、引き攣った。

(つづく)

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